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第一審判決

平成28年3月17日東京地裁判決平成26年(ワ)第20422号特許権侵害差止等請求事件は、リアル下町ロケット訴訟として巷でも話題になっていた訴訟です。町工場島野製作所が、世界的企業アップルを訴えました。今回は、左記判例について、簡単に内容を紹介したいと思います。

本件事案の概要は、原告が有する「接触端子」という名称の特許について、被告らが被告製品に使用し、無許可で日本国内に「輸入」し、販売「譲渡」していることに対して差止及び損害賠償を請求したというものです。

原告特許は、概要、
A「管状の本体ケースに収容されたプランジャーピンの該本体ケースからの突出端部を対象部位に接触させて電気的接続を得るための接触端子」で、

プランジャーピンは、
B「①前記突出端部を含む小径部
及び
②前記本体ケースの管状内周面に摺動しながらその長手方向に沿って移動自在の大径部
を有する段付き丸棒の形状のプランジャーピン」であり、

C「突出端部を本体ケースから突出するように本体ケースの管状内部に収容したコイルバネで付勢」する。

付勢の方法は、
D1「プランジャーピンの中心軸とオフセットされた中心軸を有する大径部略円錐面形状を有する傾斜凹部に
2押付部材の球状面からなる球状部を前記コイルバネによって押圧し、
3大径部の外側面を本体ケースの管状内周面に押し付けることを特徴とする。」
そんな、「接触端子」とされています。

要は、プランジャーピンの突出端部を対象部位に接触させるために、球状の押付部材をプランジャーピンとコイルバネの間に設置し、押付部材を大径部傾斜凹部に押し付けることで大径部の外側面を本体ケースの管状内周面に押し付け、比較的大なる電流を流し得る接触端子を提供するための発明ということになるようです。

被告等は、押付部材に対応する被告らポゴピン中の「コマ」は、原告特許押付部材のように完全な球形ではなく一部が球形であるに過ぎないから、被告製品は原告特許を侵害しないと反論しました。

これに対して、裁判所は、押付部材については、傾斜凹部に押圧される部分が「球状面からなる球状部」であることは、記載があるが、それ以外の部分の形状については原告特許請求の範囲に何ら記載がないので、さらに、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載及び、図面を参照するとしました。
そのうえで、発明の詳細な説明には押付部材は「絶縁球」と記載され、図面にも完全な球状の部材が記載されているのみであることを適示しています。そのうえで、押付部材に相当する部材としては「絶縁球」のみが記載されていることから、押付部材は原告特許においては球であり、球以外の形状の押付部材は予定されていないと判断しています。
さらに、これに加えて、本件特許は分割出願されたものであること、優先権の基礎とされた出願においても、介在部材としては「絶縁球」のみが記載されていること、分割出願に際して原告が「少なくとも一部に球状面を有する押付部材の球状部」という補正をしていること、当該補正に対して新規性、進歩性を欠くものとして拒絶理由通知が発せられ、原告が押付部材を「押付部材の球状面からなる球状部」と補正していることなどを裁判所は適示しています。そのうえで、やはり、原告特許は、押付部材が球状のものを指していると指摘しています。
簡単に言えば、原告が押付部材を球状とする特許はとっているけど、押付部材の一部が球状である特許は特許申請していない。特許申請していない発明を使っているだけなので、原告請求には理由がないというのが裁判所の判断のようです。要は、原告が2011年に本件特許を含んだ出願をした際に、押付部材について球状のものだけを出願しているので、本件について特許侵害はないという判断です。これだけみると、原告の特許の取得方法に問題があったかのような判断にも読めます。もちろん、当時の状況や技術的な専門判断からあえてそのような出願にしたのかもしれませんし、特許の不備が何に起因するのかは判決書からは特定できません。

リアル下町ロケット訴訟として注目を集めていた割には、地裁段階ではあっけない結末になったようにも読めます。 どちらかというと実質面に踏み込んで判断する前に手続き面の不備で決着がついてしまったような印象です。 しかし、本件訴訟は平成28年3月30日付で控訴がされているようです。控訴審では原告から均等論の主張も出される可能性があり、知財高裁の判断に注目が集まるでしょう。

知財高裁控訴審判決

平成28年10月26日知財高裁判決(平28(ネ)10042号 事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件 )は、島野製作所VSアップル事件の控訴審判決です。島野製作所からは均等論に関する主張も出されましたが、知財高裁は島野製作所の請求を棄却し、事件は上告されず確定しています。

控訴審の均等論に関する判示部分

控訴審は、「控訴人は,仮に,本件発明の構成要件Dの「押付部材」が球に限定されることから,押付部材としてコマ状部材を用いている被告製品は,構成要件Dを充足しないものとして文言侵害が認められないとしても,本件においては,均等侵害が成立する旨主張する。  しかし,特許請求の範囲に記載された構成中,相手方が製造等をする製品又は用いる方法と異なる部分が存する場合において,均等侵害の成立が認められるためには,上記異なる部分の全てについて均等の5要件が満たされることを要する。  前記2のとおり,本件特許請求の範囲に記載された構成と被告製品とは,①構成要件Dの「押付部材」につき,本件明細書において,小型化の要請にこたえて接触端子の径(幅)を大きくすることなく,コイルバネを流れる電流量を小さくしながら,比較的大きな電流を流し得る接触端子の提供という,本件発明の課題を解決するための構成として,「大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部」内に収容されていることが開示されており,「押付部材」自体が本体ケースに接触して電流経路を確保することは,開示されていないのに対し,被告製品のコマ状部材は,それ自体が本体ケースの内周面に左右2箇所で接触して電流経路を確保している点において異なるほか,②構成要件Dの「押圧」は,押付部材の球状面からなる球状部の中心を傾斜凹部の中心軸上に安定して位置させるものであるのに対し,被告製品のコマ状部材の球状部がプランジャーピンの傾斜凹部を押すことは,コマ状部材の球状部の中心を傾斜凹部の中心軸上に安定して位置させるものではない点においても異なる。  控訴人は,これらの相違点のうち,構成要件Dの「押付部材」が球形であるのに対し,被告製品のコマ状部材が球形ではないという点についてのみ均等の5要件を主張するにとどまるから,主張自体,失当である」などとして、均等論の主張を退けました。

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