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1.概説:特許権が発生した後においても、クレーム、明細書、図面の記載を訂正することが許されます(特許法126条1項)。審判の請求人は、特許権者です。特許権が共有にかかるときは、権利の変動を生じるため、共有者全員による審判が求められます(132条3項(権利の得喪が決まる、拒絶査定不服審判においても同様))。また、権利の変動を生じるため、実施権者がいる場合は、実施権者の承諾も要求されます(127条)。訂正審判の請求書には、訂正したクレーム、明細書、図面を添付することになります。

2-1.訂正要件:目的限定:訂正は、クレームの減縮、誤記、誤訳の訂正、不明瞭な記載の釈明を目的とするものに、限定されます(126条1項、目的限定)。目的限定は、17条の2第5項においても求められるが、17条の2第5項1号にいう請求項の削除は、126条1項1号にいう請求項の減縮に含まれていると解されています。
2-2.新規事項追加禁止:また、訂正は、願書に添付した請求の範囲、明細書、図面の限りで行うことができます。請求の範囲を追加できないのは当然として、29条の2の効果なども踏まえて、明細書や図面も、願書の範囲を超える訂正はできません。
2-3.クレーム拡張の禁止:訂正は、請求の範囲の減縮を目的とする場合はもちろん、誤記、誤訳の訂正や、不明瞭な記載の釈明においても、クレームを実質的に拡張し、又は変更するものであってはなりません(126条4項)。この場合の変更には、クレームの縮小的変更は含まれず、拡張ないし、実質的に異なる事項への変更のみが、「変更」概念に当たると解すべきです。
2-4.誤記訂正の場合:以上を踏まえても、誤記の訂正の場合は、表面的には訂正が請求項を拡張し、新規事項の追加に見える場合でも、訂正が誤りであることが明白であり、当業者において、訂正後の範囲を明確に読み取れた場合には、変更ないし、記載事項の範囲内の要件を双方満たすと解されます。なぜなら、そのような訂正により当業者が害されるとはいえないからです。たとえば、「分枝を有するアルキレン基」との表現を、「分岐を有することあるアルキレン基」との表現に変更することは、表面的に請求の範囲を拡張するものです。また、新規事項の追加の要素も含みます。さらに、最初の表現から、当業者において、訂正後の表現を含むことが自明であるとはいえません。以上から、新規事項追加禁止、クレーム拡張禁止の要件を満たさず、許されないことになります(最判昭和47年12月14日-フェノチアジン誘導体製法事件)。
2-5.独立特許要件:さらに、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正を目的とする訂正審判においては、訂正後の請求の範囲から特定される発明が、独立して特許を受けられる発明で無ければなりません(126条5項)。訂正後、本来なら特許権を付与できない発明に特許権が存続することを防ぐ趣旨です。
2-6.消滅と無効:訂正審判は、特許権消滅後も請求できます。しかし、無効とされた場合は、できません。なぜなら、消滅後も存続した期間の特許権侵害など、その権利を争う利益があるが、無効の場合、遡って権利が消失するからです。
2-7.審決:訂正を認めない場合は、請求不成立審決を行います。これに対して、請求を認める場合は請求成立審決を行います。訂正審決は出願時に遡って効力を有し、特許権の内容を変容させることになります。訂正審決に異議のあるものは、訂正後の発明に無効事由があると主張する場合も、訂正自体に違法があると主張する場合も、特許無効審決を請求することになります(123条1項参照)。

3.複数箇所の訂正:複数箇所の訂正が請求された場合、ⅰ.訂正が誤記の訂正のような形式的なものであるときは別として、ⅱ.請求書を補正して、複数の訂正の一部について訂正する趣旨を明確にした場合を除いては、複数箇所の訂正を一体のものとして、訂正を請求していると解するべきです。なぜなら、発明は一個の技術的思想であって、実質的にその意味内容を変更する訂正は、これを不可分一体の訂正と見るべきだからです(最判昭和55年5月1日-耕耘機に連結するトレーラーの駆動装置事件)。
また、このように解さないと、訂正の一部を認め、一部を許さない場合、請求人の意図しない訂正になるおそれがあり、請求人に訂正のイニシアティブ(いわば、特許法における処分権)を揺るがすおそれがあります。反面、不可分一体のものとして、一部の訂正が要件を満たさないとして請求不成立審決をしても、請求権者は後日、請求を取り下げた上で、一部に限定した訂正審判を請求するとか、一部に限定する趣旨の補正を行うとかできます。この場合、請求権者のイニシアティブは守られることになります。

4.無効審決との関係:訂正審判は、無効審判請求に対する対応としてされることがあります。訂正により無効事由を消滅できれば、無効審判は認められません。反面、無効審決が確定すれば、訂正審判を請求することは、できません。
4-1.無効審決の確定と訂正審判:では、特許無効審判と、訂正審判が同時に係属するとき、無効審決が確定した場合、訂正審決はどうなるのでしょうか。この点、特許権消滅後に訂正審判を認める趣旨は、特許権消滅後にも無効審判が認められることに対する対抗措置を認める点にあります。したがって、無効審決確定後は訂正審判を請求できません。しかし、無効審判が確定し、特許権が遡及的に消滅した場合は、もはや、訂正されるべき発明に特許権は存在しえず、訂正審判はその目的を失うことになります。したがって、特許法126条6項ただし書は、無効審判と訂正審判が同時に係属している場合にも、その適用があるというべきです(前掲耕耘機に連結するトレーラーの駆動装置事件参照)。したがって、訂正審判不成立審決取消訴訟係属中に、無効審決が確定した場合は、取消訴訟における訴えの利益が否定されると考えられます。
4-2.訂正審決確定と無効審判:反対に、無効審判係属中に対抗措置としてなされた訂正審判が確定した場合は、無効審判にどのような影響が及ぶのかが問題となります。
4-2-1.無効審判係属中:無効審判係属中に、訂正審決が確定した場合は、訂正審決の遡及効から審判対象は訂正後の発明に変更されます。審判官は、変更された後の審判対象について、請求人、被請求人の双方に、弁論の機会を与え、攻撃防御の機会を付与するべきです。
4-2-2.無効審判成立審決取消訴訟事実審係属中:無効審判成立審決取消訴訟係属中において、同一事実に基づく無効の主張は、他の事実に基づく無効の主張と併せて、訂正後の独立特許要件違反として、訂正後の特許権の特許無効審判で争われることが予定されています(126条6項、123条8号)。これは、訂正後の発明に対して、第1次的な行政機関による審査を経させる趣旨です。したがって、無効審判成立審決は、取り消させれることになります(最判昭和51年5月6日-大経角形鋼管事件)。なお、訂正後の発明について、無効審決の行政機関による審査を経ていないことが実質的な理由とされます。しかし、後掲の高裁判例の論理で行けば、訂正審決において、行政の判断を経ているとも言い得えます。
4-2-3.無効審判不成立審決取消訴訟事実審係属中:上記、大経角形鋼管事件は、無効審判成立審決に対するものであり、無効審判不成立審決について、射程が及ぶものでないと解されます。すなわち、無効審決不成立審決取消訴訟においては、訂正後の発明についても無効事由がないことが、訂正審決における独立特許要件の審査において、行政の審査を経て確定しています。したがって、行政の判断を前置すべき趣旨からも、当然に不成立審決を取消すべきまでもありません。裁判所は、不成立審決取消訴訟においては、訂正後の発明において、審理判断できます(東京高判平成14年11月14日-建築物の骨組み構築方法事件)。
4-2-4.無効審判成立審決取消訴訟上告審係属中:訂正審決が確定し、請求の範囲が減縮された場合には、原審に、民事訴訟法338条1項8号にいう、判決の基礎となった行政処分が、後の行政処分によって、変更された場合にあたります。また、無効審決成立審決取消訴訟において、訂正審決が確定した場合、行政機関による無効審決をもう一度経る必要があるから、取消対象たる成立審決を取消すべきとされます(前掲大経角形鋼管事件)。したがって、原判決を破棄し、審決を取消すべきです(最判平成17年10月18日-包装され含浸されたクリーニングファブリックおよびその製造方法事件)。

5.無効審判と訂正審判の調整:以上のように、無効審判と訂正審判が別々に係属すると、確定の順序により結論が異なるなど、不合理な点が多いことになります。したがって、無効審判手続の中で、訂正審判を請求できる制度などが創出され、無効審判と訂正審判の調整が図られています。
5-1.訂正審判請求の制限:無効審判係属後は、無効審判不成立審決が確定するまでの間、訂正審判を請求できません(126条2項本文)。もっとも、無効審判にもとづく審決取消訴訟係属後90日間は、この限りではありません。取消訴訟係属後は、無効審判内における訂正請求が使えないから、訂正請求の途を開くためです。
5-2.無効審判における訂正請求:そして、無効審判係属中は、被請求者は、無効審判の手続内で、訂正請求を行うことが認められました(134条の2第1項本文)。134条の2第5項で、訂正審判に関する要件が準用されているから、訂正が認められる要件はほぼ同一です。もっとも、不明瞭な表記の釈明を目的とする訂正においては、審判対象が訂正前後を通じて同一であり、その無効は無効審判で審理されるから、独立特許要件は課されません。
5-3.無効審判に基づく審決取消訴訟係属後90日以内の訂正審判:無効審判に基づく審決取消訴訟係属後90日以内に訂正審判を請求した場合、無効審判手続と、訂正審判手続が、競合することになります。そこで、競合から生じる不合理を解消するために、審決を取消して、無効審判に差し戻すことができます。この場合、訂正審判がすでにされていれば、訂正審判は取り下げたものとみなされ、無効審判における訂正請求がされたものとみなされます。また、訂正審判がいまだされていない場合にも、訂正請求が擬制されます。いずれにせよ、無効審判における訂正請求に吸収、解消されることになります。
5-4.調整されない場面:以上によっても、無効審判係属前に訂正審判が係属している場合、裁判所が無効審決取消による差戻し手続を行わない場合、両手続の調整は行われません。この場合、特許庁は無効審判を優先的に審理することになります。また、181条2項により、訂正審決確定後も、無効審決を取消さずに裁判所は審理できるとする見解も主張されるが、裁判例で採用されるに至っていません。

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