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1.優先権

パリ条約による優先権とは、同盟国に出願した場合(第1出願)、一定の期間中は、他の同盟国においても、第1出願を基準日とする出願を行える地位を言います。同盟国間では、出願の遅れにより権利が付与されない事態が回避されることになります。2つ以上の第1出願に基づく複数の優先権主張や、第1出願を一部とする部分優先権の主張も認められます。
優先権主張手続について、法定されています。まず、優先権を主張するには、第1出願をした同盟国の国名、第1出願の年月日を記載した書面を提出しなければなりません(特許法43条1項)。また、同盟国の認証がある書面を43条2項各号の最先の日から1年4ヶ月以内に提出しなければなりません(同43条2項)。
パリ条約の例による優先権も認められています。すなわちパリ条約同盟国以外の国での出願に基づく優先権主張が認められています(同43条の2)。
第1出願と特許法29条の2について解釈が必要になります。29条の2にいう、「出願日前の他の…出願」とは、優先権主張を伴う出願については、第1出願日をさすものと解されます。29条の2の趣旨は、クレーム及び、明細書記載の発明についてはすでに公開されている点にあります。また、明細書記載の範囲で請求を拡張、変更できることから、後願の審査の便宜上、後願排除効を付与する点にあります。そうであるところ、優先権主張を伴う出願も明細書記載の範囲で出願公開され、明細書記載の範囲内で拡張、変更が可能であると解されます。また、明細書記載の範囲内において、第1出願の優先権を享受します。したがって、明細書記載の発明まで含めて、第1出願日を基準日として後願排除効を認めるべきと判断されることになります(東京高判昭和63年9月13日)。
国内優先権とは、国内の先の出願から1年以内の出願において、優先権を主張したとき、先の出願日に出願したとみなされる地位を言います。先の出願は出願日から1年3ヶ月後に取下げたとみなされます(特許法42条)。優先権が及ぶ範囲は、先の出願のクレーム、明細書記載の発明の範囲です。

2.出願分割

出願分割という制度があります。特許出願人は、44条1項各号の場合に限り、二以上の発明を包含する出願を、一又は二以上の新たな出願にできます(特許法44条1項柱書)。新たな出願は、当初の出願日にされたものとみなされます(同44条2項本文)。なお、出願分割できるのは、当初のクレーム及び明細書に記載された発明の範囲に限られます。これを超える場合は、適法な出願分割といえず、出願日遡及は生じないと解されています(知財高判平成19年5月30日)。
明細書記載の発明について、クレームに記載されず、明細書に記載されているに過ぎない発明も、出願人は出願日に公開のルートに乗せており、出願公開後は後願排除効が付与されるのであるから、独立して出願分割の対象とできると解されています(最判昭和55年12月18日参照)。

3.出願変更

特許、実用新案、意匠登録は、相互に変更することが可能であり、実用新案登録、意匠登録を特許出願に変更した場合、出願は、先の登録日にされたものとみなされます(特許法46条5項、44条2項)。出願日遡及があることから、変更は、先の出願および登録に記載された範囲に限られます。変更後、先の出願、登録は取り下げられたものとみなされます(同46条4項)。

4.出願の取り下げ

出願人は何時でも、出願を取り下げることができます。発明を公開するかしないか、特許を受けるか受けないか、審査を受けるか受けないかは、国家に権利保護を求めるや否やの問題であり、個人にその選択が委ねられています。

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