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言語著作物とは、「小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物」として規定されています(著作権法10条1項1号)。「小説」、「脚本」、「論文」、「講演」はあくまで例示であり、「その他」広く言語で表現された著作物が含まれます。著作権法に、「言語」について定義した規定はなく、記号や手話も含まれると解されています。

言語著作物の著作物性

判例(東京地裁判決平成7年12月18日知裁集27巻4号787頁「ラストメッセージIN最終号事件」)において,言語著作物が題材となり、著作物性の要件たる創作性について判断された事例があります。同判例は、「ある著作が著作物と認められるためには,それが思想又は感情を創作的に表現したものであることが必要であり…誰が著作しても同様の表現となるようなありふれた表現のものは,創作性を欠き著作物と認められない」と述べたうえで,たとえば,下記の文章について「執筆者の個性がそれなりに反映され」ていることを根拠として,著作物性を認めました。
判例上著作物性が肯定された文章(以下引用(株式会社マガジンハウス発行ギアマガジン最終号より))

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反面たとえば下記のような記事は、「いずれも短い文で構成され…その表現は、日頃よく用いられる表現、ありふれた言い回しにとどまっているものと認められ、これらの記事に創作性を認めることはできない」として著作物性が否定されています。
判例上著作物性が否定された文章

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誌名・内容を刷新して再発行いたします。長い間ご愛読いただき、
まことにありがとうございました。心から御礼申し上げますととも
に、新雑誌へのご支援をよろしくお願い申し上げます。★新・健康
誌は、新しい読者層の開拓と、その関り合いとを深めるため、これ
までの「壮健ライフ」のイメージ・内容を一新し、誌名も改題して、
まったく新しい健康分野に挑戦いたします。どうぞご期待ください。

このように,判例上,文章の長短というよりは,文章への個性の反映に着目して著作物性が判定されています。

事実の伝達

著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをい」い(著作権法2条1項1号)、 そして、上記のとおり、小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物は、著作物として例示されています(著作権法10条1項1号)。
但し、事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は、前項第一号に掲げる著作物に該当しません(著作権法10条2項)。

もっとも上記の通り、短文の休刊のお知らせの場合などに著作物性が認められた場合がある通り、単に事実の伝達に過ぎないとしても、著作物性を否定すべきと即断すべきでないとの考えを示した判例もあり、また、個々の記事に著作物性が認められない新聞やウェブサイトでも記事の選択と配列に編集著作物性、データベース著作物性を肯定される余地があります。

ところで、著作権法10条2項を根拠に事実は著作権法で保護されないと言われることがありますが、ミスリーディングだと考えます。

「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」とは、事実のうち、5W1Hのみが記載されたような、個性が全く現れない骨組みだけの事実を指しています。したがって、報道や学術論文など、もっぱら事実を表現した文章であっても、表現すべき事実と表現に盛り込まない事実の取捨選択、言葉の選択、文章の並べ方などに、個性を感得することができるのであれば著作権法上の保護の対象となります。その意味で、「事実」は保護されない、というのはミスリーディングです。

以下は、私見ですが、このように事実だけを記載した文章も、事実上、保護に値する事実を記載した文章と、そうでない事実を記載した文章で選別がされていると考えられます。この点は、アイディアに関しても同様のことが言えると考えます。ただ、現在の著作権法実務では、保護に値しない事実を表現した場合を単に「事実」と言い、保護すべき事実を表現した場合を「表現」と呼んで、要保護性のある表現とない表現の選別を行っていると考えられます。また、現在の著作権法実務では、保護に値しないアイディアを表現した場合を単に「アイディア」と言い、保護すべきアイディアを表現した場合を「表現」と呼んで同様に保護対象の取捨選択を行っているというのが私見です。このように、質的には同質の対象を完全に異質なものとして要保護性の整理を行っている点で、概念に若干の混乱が生じており、交通整理が必要というのが、私見です。

いずれにせよ、事実を表現したに過ぎない文章であっても、短信などを除いて、新聞記事やニュース原稿などは多くの場合著作権法の保護の対象となります。この意味で、事実は保護されないという表現は、誤解を生じやすいと考えられます。

キャッチフレーズの著作物性

広告のコピーや、交通標語などキャッチフレーズに著作物性は認められるのでしょうか。この点、判例上、キャッチフレーズだから認められない、認められると画一的に判断が下されているわけではなく、創作性が認められるキャッチフレーズ、標語については著作物性を肯定したものもあります。ただし、キャッチフレーズは一般的に短い場合が多く創作性が肯定される例は多くないと考えられます。

交通標語事件

以下、交通標語事件原告創作の著作物を引用します。

ボク安心 ママの膝(ひざ)より チャイルドシート

この交通標語について、平成13年 5月30日東京地裁判決(平13(ワ)2176号 損害賠償請求事件(チャイルドシート交通標語事件第一審))は、以下のように述べて、著作物性を肯定しています。

 原告は、親が助手席で、幼児を抱いたり、膝の上に乗せたりして走行している光景を数多く見かけた経験から、幼児を重大な事故から守るには、母親が膝の上に乗せたり抱いたりするよりも、チャイルドシートを着用させた方が安全であるという考えを多くの人に理解してもらい、チャイルドシートの着用習慣を普及させたいと願って、「ボク安心 ママの膝(ひざ)より チャイルドシート」という標語を作成したことが認められる。そして、原告スローガンは、三句構成からなる五・七・五調(正確な字数は六字、七字、八字)調を用いて、リズミカルに表現されていること、「ボク安心」という語が冒頭に配置され、幼児の視点から見て安心できるとの印象、雰囲気が表現されていること、「ボク」や「ママ」という語が、対句的に用いられ、家庭的なほのぼのとした車内の情景が効果的かつ的確に描かれているといえることなどの点に照らすならば、筆者の個性が十分に発揮されたものということができる。

判例上、個性の現れと評価されたのは、①「三句構成からなる五・七・五調(正確な字数は六字、七字、八字)調を用いて、リズミカルに表現されていること」(リズム感)、②「ボク安心」という語が冒頭に配置され、幼児の視点から見て安心できるとの印象、雰囲気が表現されていること(作者と異なる視点から工夫されて表現されていること)、③「ボク」や「ママ」という語が、対句的に用いられ、家庭的なほのぼのとした車内の情景が効果的かつ的確に描かれているといえること(対句による家庭的雰囲気の強調)などです。

英会話キャッチフレーズ事件

平成27年 3月20日東京地裁判決(平26(ワ)21237号 著作権侵害差止等請求事件)

ア 著作物といえるためには,「思想又は感情を創作的に表現したもの」であることが必要である(著作権法2条1項柱書き)。「創作的に表現したもの」というためには,当該作品が,厳密な意味で,独創性の発揮されたものであることまでは求められないが,作成者の何らかの個性が表現されたものであることが必要である。文章表現による作品において,ごく短かく,又は表現に制約があって,他の表現が想定できない場合や,表現が平凡でありふれたものである場合には,作成者の個性が現れていないものとして,創作的に表現したものということはできない。
イ 原告キャッチフレーズ1は,「音楽を聞くように英語を聞き流すだけ/英語がどんどん好きになる」というものであり,17文字の第1文と12文字の第2文からなるものであるが,いずれもありふれた言葉の組合せであり,それぞれの文章を単独で見ても,2文の組合せとしてみても,平凡かつありふれた表現というほかなく,作成者の思想・感情を創作的に表現したものとは認められない。
ウ 原告キャッチフレーズ2は,「ある日突然,英語が口から飛び出した!」というもの,原告キャッチフレーズ3は,「ある日突然,英語が口から飛び出した」というものであるが,17文字(原告キャッチフレーズ3)あるいはそれに感嘆符を加えた18文字(原告キャッチフレーズ2)のごく短い文章であり,表現としても平凡かつありふれた表現というべきであって,作成者の思想・感情を創作的に表現したものとは認められない。
(2) 以上によれば,原告キャッチフレーズには著作物性が認められないから,その余の点について判断するまでもなく,原告の著作権に基づく請求は認められない。

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