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著作権法学会の判例研究会に参加してきました。

題材は、大阪地方裁判所平成29(ワ)781 号 損害賠償請求事件平成30年4月19日裁判所名 大阪地方裁判所民事26部判決(ジャコ音源事件)でした。

以下、備忘録です。

音源は、レコーディング  ミキシング 、マスタリング など各種の行程を通じて、原盤(マスター)となり商品化されます。

通常、楽器一つ一つを演奏して録音(レコーディング)したマルチトラックから、ミキシング作業を経て2つとか単数のトラックにトラックダウンしていきます。

レコーディング時点で法的な意味での「音の固定」としては終了するのか、ミキシングも「音の固定」になるのか、両論がありえるというのが中心課題でした。

判例は法律解釈として下記の判断を示しています。

著作権法2条1項6号は,レコード製作者を「レコードに固定されている音を最初に固定した者」と定義しているところ,「レコードに…音を…固定」と は,音の媒体たる有体物をもって,音を機械的に再生することができるような状態 にすること(同項5号も参照),すなわち,テープ等に音を収録することをいう。そうすると,レコード製作者たり得るためには,当該テープ等に収録されている 「音」を収録していることはもとより,その「音」を「最初」に収録していること が必要である。ところで,著作権法96条は,「レコード製作者は,そのレコードを複製する権 利を専有する。」と定めているところ,ある固定された音を加工する場合であって も,加工された音が元の音を識別し得るものである限り,なお元の音と同一性を有 する音として,元の音の「複製」であるにとどまり,加工後の音が,別個の音として,元の音とは別個のレコード製作者の権利の対象となるものではないと解される。

結論としてはジャコ音源事件は、レコーディング時点で音の固定は終了しており、ミキシングについては、新たな音の固定とは評価できないため原盤権は発生しないという判断でした。

このように、ミキシングによる音の固定は、レコーディングと同じ音の固定(複製)であり新たな「音」の固定とはならない、というのがジャコ音源事件の結論でした。

裁判所は次のように判示して、新たな「音」とはならないと評価しました。

現に,本件マスターテープ2に収録されている音が,本件マスターテープに収録されている音を識別できないものになっているとは認められない。そうすると,本件音源についてのレコード製作者,すなわち本件音源の音を最初に固定し た者は,レコーディングの工程で演奏を録音した者というべきであるから,原告が ミキシング等を行ったことによりそのレコード製作者の権利を原始取得したとは認 められない。

これに対し,原告は,ミキシング等の工程後の楽曲は,レコーディングの工程で 録音された音とは全く別物になり,その楽曲こそが販売されるレコードの音である から,レコード製作者はミキシング等の工程を行った者であると主張する。確かに, ミキシングの工程は,楽曲の仕上がりやサウンドを大きく左右する重要な工程であ って,多額の費用を投下する場合もあると考えられる。しかし,前記のとおりミキシング等は,レコーディングの工程で録音されたマルチチャンネルの音を組み合わ せ,編集するものであって,その目的上,元の音を識別できないほどに変容させる ことは考え難いから,原告の上記主張は採用できない。

しかし、ミキシングも新たな音の固定に当たると考えて、原盤権の発生を認める方が実務に適合的ということです。

共有や、レコーディング時点で1次的原盤権、ミキシング時点で2次的原盤権という2次的著作物と類似の2段階の権利発生なども考え得るということでした。

このように、原盤権について権利の発生や帰属など様々な考え方があり得るという点で大変勉強になりました。

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