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令和2年6月25日東京地方裁判所判決(事件番号平成30(ワ)18151損害賠償請求事件)は、ロシアの人気キャラクター『チェブラーシカ』の独占的利用権侵害が争点となった事案です。

結論として一審裁判所は、独占的利用権の侵害を認めませんでした。

事案の概要

「本件は,原告が,被告において「チェブラーシカ」等の劇場用アニメ映画で描写された登場人物としてのキャラクターを利用したぬいぐるみ,トートバック等多数の商品を販売する行為が,原告の上記キャラクターに関する著作物に係る独占的利用権を侵害すると主張して,被告に対し,民法709条,著作権 法114条3項に基づき損害賠償金1億1000万円(うち1000万円は弁 護士費用)及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案で」す。

原告(米国会社)

原告は,アニメーション作品の事業開発,ライセンス,商品化,供給等を業とする『米国会社』です。

被告(日本組合)

被告は,キャラクター商品の企画,製造,販売等を業とする日本の『有限責任事業組合』です。

ロシア法人SMFとの契約

日本組合被告とSMF

2005年に被告の組合員であった『日本法人TXBB』は,『ロシア法人SMF』との間で,旧ソ連諸国を除く世界のすべての国及び地域において,「チ ェブラーシカ・シリーズ」を原作とするアニメーション映画3作品について独占的商品化権などを付与する2014年までを期限とする(ただし10年の更新ができる)契約を締結しました。

日本組合被告は、2016から2018年までチェブラーシカのキャラクターグッズの販売を行っていました。

米国会社原告とSMFの契約

2016年に米国法人原告は、『ロシア法人SMF』との間で、チェブラーシカを初めとするキャラクターの独占的利用権を2016年から2021年までの期間付与する内容の契約を締結したと主張しています。

独占的利用権の内容は、「所定の商品の製造又 は所定のサービスの提供など所定の利用態様及び利用方法により複製,翻案,譲渡する権利」(「キャラクターに係る商品化権」。)でした。

独占的利用権の法的保護

裁判所は、『 独占的利用権者は,商品化権の権利者に対し,契約上の地位に基づく債権的 請求権を有するにすぎないが,このような地位にあることを通じて本件キャ ラクターに係る商品化権を独占的に使用し,これを使用した商品の市場にお ける販売利益を独占的に享受し得る地位にあることに鑑みると,独占的利用権者がこの事実状態に基づいて享受する利益についても,一定の法的保護が 与えられるべきである。』として不法行為法上保護に値する利益であることを認めています。

その上で、裁判所は、保護の条件として、『独占的利用権者が,契約外の第三者に 対し,損害賠償請求をすることができるためには,現に商品化権の権利者か ら唯一許諾を受けた者として当該キャラクター商品を市場において販売しているか,そうでないとしても,商品化権の権利者において,利用権者の利用 権の専有を確保したと評価されるに足りる行為を行うことによりこれに準じ る客観的状況を創出しているなど,当該利用権者が契約上の地位に基づいて 上記商品化権を専有しているという事実状態が存在するといえることが必要』と判示しています。

本件についての裁判所の判断

裁判所は、まず、『事実経過に鑑みれば,そもそも原告は,本件原告ライセンス契約に基づいて,本件キャラクターを付すなどにより本件キャラクターを利用した 商品を日本において独占的に販売するなど,自ら当該商品化権を専有してい るという事実状態を生じさせているものではない』と判示しています。

さらに裁判所は、本件の具体的な交渉経緯や『ロシア法人SMF』の態度などを踏まえて、『このような本件事案における事実状態をもってしては,権利者とされるSMFによって,利用権者たる原告の利用権の専有を確保したと 評価されるに足りる行為が行われたとはいえず,SMFによって,原告が, 現にSMFから唯一許諾を受けた者として当該キャラクター商品を市場において販売している状況に準じるような客観的状況が創出されているなど,原 告が契約上の地位に基づいて上記商品化権を専有しているという事実状態が 存在しているということはできないというべきである』と述べています。

そして、結論として裁判所は、原告のキャラクターの独占的利用権について、不法行為法上法的保護に値する状況にないと判断しました。

ロシア(ソビエト連邦)の職務著作

さらに本件ではロシア(当時ソビエト連邦)における著作権の帰属主体が争点となっており、参考になります。

なお、裁判所は、『権利者とされるSMF』との表現をするなど、この問題については、本件では裁判所としての判断を示していません。

原告からの主張

原告は、『当時のソビエト連邦では企業の職員は自らの仕事を遂行 した対価として賃金,上演に対する報酬,ボーナス,及び法律で定められたその他の支払を受け取っていたのであり,職員らの創造したものはすべ て自動的に企業に帰属していたことからすれば,国家が既にその対価を支 払った画家又は監督の絵の独占的権利はその雇用者である旧SMFに帰 属していた。本件映画の美術監督であった,B(以下「B」という。)が自 らの権利を主張した訴訟において,ロシア国内の裁判所は同様の見解を採っている』と主張しています。

ロシア連邦最高裁判所総会

また、原告は、『ロシア連邦最高裁判所総会において,「1992年8月3日以前に製作された音声映像作品すなわちアニメーションフィルムのキャラクタ ーの権利は,当該アニメーションフィルムの撮影を行った企業すなわち映 画スタジオ(又はその著作権継承者)に帰属する。上記期間にアニメーションフィルムの製作に参加した自然人は,アニメーションフィルムの独占 的権利も,そのキャラクターの独占的権利も,持たない。」旨の決議がなさ』れたと主張しています。

被告からの反論

これに対して被告日本法人からは、『本件キャラクターに係る商品化権は,ロシア・ソビエト連邦社会主義共 和国の民法典第486条に照らせば,本件キャラクターの創作に主体的・ 主導的に関与していたBに当初は帰属していたものと考えられるところ, 本件映画が旧SMFによって製作された事実とBが美術監督として本件映画の製作に参加した事実のみによっては,Bに当初帰属していた本件キ ャラクターに係る商品化権がBから旧SMFに移転したことは十分に証 明されているとはいえない』と反論されています。

米国裁判例

さらに、『旧SMF製作の映画の著作権の現在の帰属先がSMFで 20 あるかが争点となった事案において,旧SMF製作の映画の著作権及び承 継関係等に関する事実関係並びに当時のソ連の法律にまで詳細に分析・検 討を加え,かつ,ロシア連邦仲裁裁判所が2001年に下した判断の理由 付けの不十分さ・説得力の乏しさについて極めて論理的かつ冷静に論証し た上で,本件映画の著作権がSMFに帰属するとは認められないと判断した米国判決が存在する』ことが反論されています。

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